「頼れる歯医者さんselect2013」座談会記事

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「頼れる歯医者さんselect2013」に掲載された座談会の記事内容です。

 

良質な歯科医療の提供のため、今、何が求められているのか

 

深刻な歯科医院の経営問題を抱えながら、良質な歯科医療の永続的な提供のためには何が求められているのか。歯科医師たちの自主的な研究会である、日本で一番歯科医師から日本を元気にする会「N1会」に集うメンバーに「歯科医師の本音」を語っていただいた。

 

歯科医師の社会的役割、行動力を持ってアピール

 

宇田川 去年の東日本大震災にあって、被災された方たちの診療とか、遺体の身元確認とか、私たちの会からも参加された先生がいらっしゃいます。しかし、振り返ってみると、こうした歯科医師の奮闘にもかかわらず、果たした役割に比して、社会の認識は歯科医師という職業の見直しにまでは至りませんでした。私たちの目指す社会的貢献が、果たして社会的ニーズにマッチしているのか。それとも見直す必要があるのか、これを座談会の第1テーマとします。第2テーマはこれまでの治療中心の歯科治療から、予防にシフトするためにはどうしたらよいか、皆さんの意見を出し合ってください。第3テーマとしてはインプラント治療に伴う事故の報道をどう受け止めるかです。インプラント治療はそんなに危険なのか。私を含め、ここにおられる先生方もインプラント治療に携わっておられる方が多数です。報道の方向性の問題もあるとは思いますが、まずは謙虚に歯科医師の側で反省すべき点があるとしたら、それは何か、こうしたことをテーマとして座談会を進めていきたいと思います。

 

吉田(洋) 当院は青森県八戸市にありますが、幸いこの度の震災による被害は免れました。しかし、周りには被災された方、被災した家族や知人を持つ方も多くいます。先日、両親を亡くした後輩の歯科医師を訪ねました。仮設診療室をつくって、そこで診療しているのですが、多少は復興が進んできているように見えたものの、診療にあたる歯科医師はかなり不足しているようで、歯科医療の需要がかなり多いと聞きました。不自由な生活の中でも、歯のメンテナンスやクリーニングを求める患者さんの声にどう応えていくか、まだまだ大きな課題です。私の地域(岩手県)は仲間4人が医院を流されました。いまは仮設の診療所、または自宅を改造して診療を開始しています。いわゆる過疎地では歯科医師も、医師も不足していますが、これまで以上に積極的に地域の人のニーズに応えられるよう頑張っていこうと思います。

 

宮川 歯科医師の社会的役割、責任には、行政の政策への助言とか、やるべきことはたくさんあると思います。毎日の資料に追われていると時間が取れませんが、歯の健康に関する政策の策定や懇談会には、もっと積極的に参加していくことが必要です。ただしそれを可能にするためには、各医院が何らかの形で連携して力を合わせていくことも必要でしょう。

 

山田 去年歯科口腔保険の推進に関する法律ができました。この法律に基づき各地の自治体で条例ができれば、検診が義務化されます。全国で歯科医師会などが、定期検診の必要性をアピールしていけば、日本全体が健康な国になると思います。しかし、現在の保険制度では診療単価が安すぎるため、夜遅くまで診療しても経営的に苦しい医院が多い状態です。悪くなった歯の治療中心では、歯科医師自身が検診を軸とした予防に取り組めません。歯の残存数が多いほど、歯科治療費が抑えられますから、予防の大切さは患者さん本人のみならず、日本の医療費を削減するためにも大事なことです。

 

福原 歯科医師、歯科衛生士、という職業が子どもたちのあこがれの職業になる、ということはとても大切なことだと思います。私は医院の取り組みとして、地域のキッズフェスタに積極的に参加して子どもたちに歯医者さん体験をしてもらったり、自分の医院でも夏祭りのようなイベントの中で子どもたちに歯科医院に慣れ親しんでもらったり、職業体験ができるような取り組みをしています。歯科自体や予防への関心を高め、受診率の向上につなげることで、QOLの向上を通して社会貢献できるのではないかと考えています。

 

自身のイメージを変える予防への関心は信頼から

 

松井 歯科医師自身のイメージを変えていくことが必要ですね。そのためには日ごろ常に患者さんのために何ができるかを考え、勉強をして、自分が輝いている姿を患者さんに見てもらう。昔の怖いだけの歯医者さんではなく、お子さんに、将来自分も歯医者になりたいと思ってもらえるような歯医者さんを目指しましょう。

 

野中 歯医者には悪くなったから行く、痛いから行くというのが現状です。メンテナンスや予防の話をしても、なかなか実際の行動が伴わないのも事実です。これからは医院から外に出て、歯の大切さをもっとアピールする必要があります。学校や、その他団体の集まりで講演すると、歯の大事さを理解してもらえる、そうした気付きを与えられると、人は歯を大事にしてくれる。そういう機会をもっと増やしていきましょう。

 

吉田(仁) 私は校医として学校で検診しています。虫歯の子が少なくなったといわれていますが、実際は虫歯になりかかっている子どもが結構います。虫歯予防のためには、やはり医院の中だけでは効果が限られているので、講演などを通じ、子ども本人だけではなく、積極的に学校の教職員や父母に働きかけています。実際学校の先生の歯がきれいになると、そのクラスの子どもの歯もきれいになっていきます。

 

佐々木 私のところでは、予防や治療後のメンテナンスに関心を持ってもらうために、スタッフと患者さんが話す時間をなるべく多くとるようにしています。子どもにもスタッフの名前を憶えてもらえ、予防のために進んできてくれるようになりました。治療だけでなく、そうした心配りが子どもを含めた患者さんに、歯を大事にしようという気持ちになってもらうためには必要なんですね。

 

吉田(美) 私は歯科衛生士ですから、虫歯や歯周病の治療が終わったら、再発しないようなサポートをするのが使命だと思っています。でも歯科衛生士が活躍するためには歯科医師自身がその必要性を認識し、予防の意識を高めてもらう必要があります。どうも歯科医師の中には、こうした意識が希薄な人もいるようです。

 

権藤 予防に関心を持っている患者を分析すると、歯科医師や歯科衛生士を信頼していることがわかります。だから信頼関係がないと、予防の大切さを訴えても効果がない。スタッフを含めて歯科医院そのものの信頼を得るよう努力することが、予防の大切さを訴える場合の基本ですね。

 

治療後が次へのスタート、医科・歯科の連携が必要

 

宇田川 以前はよく、「悪くなったらまた来てね」という言い方をしていたようです。しかしこれでは悪くなることを前提にしている。私たちの仕事は悪くならないようにすることであり、そのためには治療が終わったときが、次へのスタートです。

 

荻原 超高齢社会が進む中で、死因として肺炎が3位にランクされました。しかし介護現場では、ケアマネージャーがまだ口腔ケアの大切さをあまり認識していません。誤嚥性肺炎を減らすためにも、介護現場や、ケアマネージャーに口腔ケアの大切さをもっと啓発することが必要です。

 

藤本 大学で臨床研修指導医をしておりますが、学生に対しても予防を中心とした歯科医師の未来の話をしています。先ほどの薄利多売の話ではありませんが、学生のころから歯科医師になることに夢を持ってもらうためにも、歯科医師の社会的役割と使命をしっかり自覚してもらうことが大事です。

 

宇田川 収入に結び付くということで、インプラント治療を手掛ける歯科医院があるようです。本来歯科医師にとってインプラントの埋入は咬合を回復するための一つの手段です。ところがインプラントを入れることが目的になると、それを入れた段階で治療が終わりとなってしまう。これでは、問題が起こってきてしまうのも当たり前です。歯科医師全体のほんの一部だと思いますが、こうした現状を踏まえて意見をどうぞ。

 

浜崎 インプラントは別の医院で入れてもらったので、メンテナンスだけやってほしいという患者さんが来たことがありました。そこは入れるだけで、メンテナンスはやらないといいます。おそらく安さだけを売りにした歯科医院だと思いますが、目的と手段を完全にはき違えている例だと思います。儲けるためのインプラントです。

 

荻原 本当に真面目にインプラント治療をおこなっている歯科医師は、それこそ海外にも研修に出かけ、勉強の量が全く違います。いろいろな報道がありますが、患者さんと信頼関係があれば、インプラントは怖いからやめようという話は出ていません。この信頼関係と納得の上での治療が大切です。

 

権藤 歯科医師免許があれば、インプラントを手掛けることは可能ですが、可能だということとやれるということは違います。私は若い歯科医師に対しては治療のベースとなる基礎がしっかりできるようになってから始めるように助言したい。これは歯科医師としての倫理観の問題だと思います。

 

武知 倫理観の養成は大切で難しい問題です。具体的は治療の仕方は大学や医院で学ぶことができますが、そもそも何のために歯科医師になったのかという初心を忘れてしまってはいけません。確かに、技術獲得が第一の面もありますが、医院の経営理念に、治療が患者のためにあることをしっかり根付かせておくことが重要です。

 

山田 やはり立ち返るとしたらわれわれが歯科医師になった理由ですね。みんな初めは何とかして人を助けたいと思うところから始まっていると思います。しかし経営難などがあり、いつの間にか目標と目的が入れ替わってしまう。

 

松井 私は患者さんを診るとき、この患者さんが自分の母親、兄弟、恋人だったらと思いながら治療にあたります。インプラントを入れるのも、残りの歯を守るためであり、仮にインプラントを入れたら、メンテナンスの問題も含め、一生のお付き合いになることを理解してもらってから入れています。

 

宇田川 インプラントは総合的な治療ですから、咬合、歯周病の予防ができなければインプラントは扱えないし、本来扱ってはいけない。だからかなり研鑚しないと本当にいい治療はできません。