当院の院長の症例が歯科専門雑誌で取り上げられました。

 

前歯がグラグラしていた41歳の男性を治療した症例があげられました。

見た目、機能的にも治療した例となっております。

今後も取材される学術的にも確かな治療を提供できるように精進いたします。

何卒よろしくお願いします。

 

11月号 12月号

 

『11月号』

・現症、診断
2016年6月20日、非喫煙の41歳の男性が、上顎前歯部の動揺と腫脹を主訴に来院。約10年前に事故で失活し、根管治療を行ったとされる左上1番に強い動揺と歯肉腫脹が認められた。初診の数日前に他院で切開排膿処置を行ったという。

初診時の所見としては、左上1番の歯根破折による強い動揺、周囲歯肉の腫脹発赤が見られた。全身的な既住歴はなかった。初診日はパノラマレントゲン撮影とセカンドオピニオンのみの対応となった。

その後7月12日に再度来院し、歯周精密検査や口腔内写真撮影、CT撮影を行った。歯周検査から全顎的な経度のプラーク付着や歯肉腫脹が認められ、プロービングデブスは全顎的には3mm以内であったが、左上1番周囲は近遠心で5mm、頬側では9mmを計測した。

パノラマレントゲン写真とCT画像からは、唇側の深い位置への破折線や、破折線付近までの唇側骨の大きな吸収が認められ、両隣在歯との歯間部の骨にも軽度の骨吸収像が認められた。

次にこの症例での審美に対するリスクファクターであるが、この患者さんの治療に対する審美的な期待は高めではあるものの、スマイル時のリップラインは低く、上前歯部の歯冠3分の1が露出する程度であった。また歯肉のバイオタイプは薄く、特に左上1番では破折後の感染により、頬側骨が大きく吸収され炎症性歯肉となっていた。角化歯肉幅は中程度で、高いスキャロップ型であった。

また、隣在歯の歯冠形態は三角様を呈していた。同部位はその時点で急性炎症を起こしている状態であり、骨吸収が認められ、隣在歯の骨レベルはコンタクトポイントから7mm以上あった。欠損部の幅は1歯分ではあるが、7mm以上である。隣在歯にはコンポジットレジン充填がなされており、その部位の再治療も希望していた。

補助的な因子としては、口腔衛生環境とコンプライアンスは普通程度であり、スマイル時の治療部位マージンラインの露出はなく、後述するが治療計画としてはstagedaproachを選択した。咬合状態は右側1級、左側3級であるが、犬歯ないし第1小臼歯でガイドしており、咬合関係の加療は必要がないと思われる。暫間補綴物は可撤性のものを用い、最終補綴物にはスクリュー固定を予定する。

以上の所見より、審美的には高いリスクレベルと分類され、3のような詳細な審美的リスク評価が導かれた。インプラント補綴による外科処置を行う場合に考慮する要因として、骨量は水平的・垂直的共に不足しており、段階法の骨造成が必要と考えられるが、重要な解剖学的構造への近接はない。また外科処置を行うに当たって問題となる既住歴や合併症はない。

硬組織の造成や軟組織量の回復も必要なため、GBRや結合組織移植術が必要となり、インプラントによる単独歯修復の難易度は高い。だが患者さんの審美的・機能的な要求、そして両隣在歯がレジン修復されてはいるものの天然歯であることから、義歯やブリッジではなくインプラント治療が望ましいと考えた。

・治療方針
全体としては、歯周初期治療を行った後、上顎前歯の破折歯の処置を行い、審美的な回復を目指すこととなる。左上1番に関しては、歯根に垂直的な破折を認めたため、保存不可能と判断した。その左上1番の欠損部をどのように審美的に回復するかを義歯、ブリッジ含めて説明した結果、患者さんはインプラント治療を選択した。

術式としては、左上1番部に破折からの感染による炎症症状を認めていることや、すでに頬側の骨が大きく失われており、HammerleとJungの分類的にはClassⅢ、Seibertの分類でも欠損部の歯槽堤が垂直的・水平的に喪失するClassⅢに分類されると考え、抜歯即時ではなくstaged approachを選択することとした。

また、インプラント補綴後、機能回復だけでなく、歯冠乳頭組織などの軟組織を含めた審美的な回復、長期的に良好な予後を目指すため、GBRや結合組織移植などを行うと説明し、同意を得た。

予定としては、歯周初期治療終了後、ペリオトームなどで抜歯を行い、その際に『バイオス』『バイオガイド』を用いたGBRを行い、5カ月待機後、インプラント埋入時に上顎口蓋部からの結合組織移植術を併用して垂直的な軟組織の増生を図り、さらに3カ月後の2次オペ時にロール法にて周囲軟組織の水平的な増生も行いことを計画した。

その後しばらくの期間、プロビジョナルのアバットメントにてエマージェンスプロファイルの形態や歯肉縁形態の再現を目指し、最終補綴物の装着を行うこととした。また、両隣在歯コンタクトポイントから歯槽頂までの距離が7mmを超えていること、両隣在歯のコンポジットレジン修復の再治療を求められていることから、プロビジョナルによる形態調整時に隣在歯のコンポジットレジン修復も行い、特に右上1番のスープラジンジバルカウントゥアーの形態も修正することとした。

・治療経過
2016年8月1日、抜歯と同時にGBRを予定し、ペリオトームにて慎重に抜歯を試みたところ、術前のCT所見の通り、頬側の骨吸収が大きく認められた。

造成する骨のボリューム、期待する水平的な組織回復量が非常に大きなものとなるため、全層弁剥離後、不良肉芽の除去を徹底的に行い、デコルチケーション、減張切開を行った。そしてメンブレン『バイオガイド』を試適後、人工骨『バイオス』の大顆粒(直径1~2mm)を入れ、縫合した。

大顆粒を使用した理由は、顆粒間の空隙自体が大きくなるため、そこへの血餅流入、組織再生が早いのではないかと考えたからである。デメリットとして形態保持が難しい面があるが、この場合は近遠心にある程度口蓋側の骨が残存しているので、形態保持は容易と考えた。考察でも記述するが、この考え自体はエビデンスに基づくものではないため、賛否を含めてご指導いただいければ幸いである。

10月25日、CT撮影の結果、まだまだ中身としては幼若であるにはせよ右上1番部に水平的な造成が十分に行われていることが確認できた。

その後、1月のインプラント埋入と結合組織移植に備え、12月13日にサージカルステントを作製した。最終的にはスクリュー固定を予定していたので、角度は立て気味、口蓋向きとはしたが、CT画像から分析すると、
ストローマンの4.1×10mmのBLTを使用した場合、それでも頬側根尖側の骨量に余裕があることが確認できた。(次号に続く)

 

『12月号』

・治療経過
2017年1月12日、抜歯時のGBR後3カ月待機し、インプラント埋入を行うこととした。

この時上前歯11の歯槽堤の状況から、左上1番を水平的・垂直的にさらに造成した方が、最終補綴物作製時に審美的に左右対称な形態が得られると考え、インプラント埋入と同時に水平的・垂直的なリッジオギュメンテーションを行った。術式としては、水平平行には硬組織による増大を、垂直方向には補綴時の歯冠乳頭の再現も考え、結合組織移植術による軟組織の増大を行っている。

切開剥離を行うと、8月のGBRによって埋入部位に十分な骨が造成できていたため、予定通りの角度・深度で『SLActive Roxolid』の4.1mm×10mmBLTを埋入することとした。

次に、CTGを行うために右側口蓋部より結合組織を採取した。恩師である中田光太郎先生に教えていただいた、供給側の侵襲を最低限に抑えることができるシングルインチジョンテクニックで採取を行ったが、この時わずかに上皮を裂開させてしまった。これからも修行が必要であると感じた。

減張切開は浅部へのシザーズテクニックによる切開と、深部へのメスによるものと、2本行った。デコルチケーション後、水平的には硬組織での造成を図るため、『バイオス』の小顆粒(0.5~1mm)を填入した。

この時小顆粒を使用した理由は、GBR時と違って近遠心壁があるわけでなく、完全に水平的に盛り上がる使い方になり形態保持が難しいので、少しでも密度が高くなることを目指したためである。また、後に全層弁を剥離する予定がなく、骨形成自体は多少遅くとも構わないという理由もあった。

その際、8月の『バイオス』がまだ残存しており、表面では幼若骨が肉芽なのか診断が難しい部分もあったので、その部分は除去して新たにGBRを行うこととした。『バイオス』填入後、CGFをメンブレンとして同部位を覆い、垂直的には先述の採取した結合組織をトリミングして歯槽頂部へ移植し、緊密に縫合した。

埋入から5カ月後の6月12日、2次オペを行った。この時はさらに軟組織を水平的に少しでも増大させようと、ロール法を用いた。インプラント埋入部分の近遠心、口蓋側に切開を入れ、アレンナイフやイグルハントを用いて、頬側へパウチ状に部分層を形成し、歯槽頂部の上皮はダイヤモンドバーで除去し、形成していた頬側のパウチ状の部分層の中に折りたたんで縫合した。

ロール法から3週間後からプロビジョナルのアバットメントを作製し、即時重合レジンを用いて、サブジンジバルカウントゥアーの形態を整えていった。これは数週間に分けて行い、少しずつ歯肉内縁をレジンで押すように膨らませていき、歯冠乳頭の形や歯肉縁の形態を調整していった。この際、プビジョナルのアバットメントは2段階作製し、さらに最終的なプロビジョナルアバットメントは同じ形態の物を2個用意した。

最終的に良好な歯冠乳頭部の歯肉形態が得られ、歯肉内縁にも炎症が見られなくなってから、最終補綴物の印象へと入った。シリコン印象にて、最終調整時の歯肉内縁の形態の印象を採り、最終形態のプロビジョナルアバットメント2つのうち、一つを技工に預け、形態などを参考にしながら最終補綴物を作製してもらうこととした。

・最終補綴物
最終補綴物は、アバットメントはジルコニアのカスタムアバットメント、上部構造はジルコボンドとし、スクリューリテインとした。また、右上1番遠心、右上2番近心には古いレジン充填がなされていたので、この時同時に『グラディアダイレクト』で修復処置を行った。

最終補綴物のアバットメントに関しては、近年のジルコニアアバットメントはインプラント体よりも硬度が高いため、経年変化でインプラント体からチタンが乖離し、歯肉に黒点ができるという報告もなされている。そのため、チタンアバットメントが推奨されていることもあり、自分も症例によってはチタンのカスタムアバットメントを使うこともある(参考症例)。

今回は患者さんの審美的要求が強かったことや、造成した歯肉が多く、将来的な歯肉の退縮へのリスクマネジメントを考慮し、上部構造は『Straumann CARES』によるジルコニアカスタムアバットメントをフレームとして、そこに陶材を築盛することとした。

9月19日、最終補綴物の装着を行った。歯冠乳頭部も歯肉で満たされており、ブラックトライアングルを生じることなく、審美的な軟組織形態の獲得に成功した。歯頸部のスープラジンジバルカウントゥアーの形態に関しては、右上1番のボリュームをもう少し出してもよいかとも考えたが、この時点で患者さんの満足を得られたため、不用意に歯肉を触らず、治療を完了することにした。

・考察および反省
今回は審美領域における単独歯欠損のケースである。治療計画、インフォームドコンセント、手術手技、経過、最終補綴物までおおむね良好な経過をたどった。考察と今後考慮すべきと考えた事項は以下の通りである。

①最初のGBR時、空隙体積の増大により血餅が多くなるため、大顆粒の『バイオス』を用いることで骨の形成が早くなるのではないかと考えた。また、インプラント埋入時は位置安定性を求め、もう同部位の全層弁を開く予定がないことから骨の形成速度が遅くても問題はないため、小顆粒を用いた。そのような顆粒の大小の適応症の是非について、エビデンスデータの認識不足があることは否めないので、今後調査したい。

②最初のGBR時には上皮の迷入を最小限に抑え、硬組織の形成を促進させる必要があるため、吸収の遅い『バイオガイド』を用い、インプラント埋入時には結合組織移植もあり、軟組織への炎症反応を最小限に抑えたかったためCGFを用いた。
CGFを2枚重ねて使用することで、その場での吸収期間を延長する努力はしたものの、『バイオガイド』と比較するとそれでも吸収は早くなると考えられる。上皮の迷入や硬組織形成が弱くなるなどの弊害がないと考えたが、軟組織への炎症反応を抑えられるというメリットの方が大きく、次に剥離する予定がなかったので臨床的なデメリットとなり得ないと判断し、今回はこの選択を行ったが、より良い選択がなかったか、検討の必要性を感じた。

③インプラント埋入時の切開剥離後、最表面にて幼若骨か不良肉芽か判断のつきにくい部分を認めたが、最初のGBR時に自家骨を採取し『バイオス』と混ぜてから使用すれば、さらに良好な硬組織の形成が行われた可能性があるので、今後検討したい。

④最初のGBRで硬組織にて水平的・垂直的な組織造成を試み、インプラント埋入時にわずかに水平的に硬組織にて、垂直的には結合組織移植術を行った。将来的な歯肉形態、主に高さの長期予後を考えた場合、歯肉の厚さを一定以上に保つため、GBR時の水平的な組織造成も軟組織にて行った方がよかったのか、今後検討したい。

⑤前述しように、審美領域のインプラント補綴の場合、最終的なカスタムアバットメントをジルコニアで作製することで起きる、チタンとジルコニアの接触による将来的な黒変の可能性を考え、チタンカスタムアバットメントとするべきなのか、逆に歯肉退縮した場合のメタルの露出を考えてジルコニアカスタムアバットメントにするべきなのか、今後の動向をしっかりと見極めたい。

 松井山手、長尾の歯医者さん、八幡市のあゆみ歯科クリニック